「日本の食品は、世界で一番添加物が多いって本当?」
「海外では禁止されている危険な添加物が使われているって聞いたけど…」
毎日の食卓に並ぶ食品だからこそ、添加物に関するこうした噂に不安を感じている方は多いのではないでしょうか。
この記事では、食品業界の専門家の視点から、巷でささやかれる「日本の添加物世界一説」の真相に迫ります。なぜ日本の添加物の種類が多いのか、その背景にある日本の食文化や法律、そして最も気になる安全性について、どこよりも分かりやすく、そして詳しく解説します。
この記事を読み終える頃には、添加物に対する漠然とした不安が解消され、ご自身の食生活と賢く向き合うための確かな知識が身につくはずです。
【結論】「日本の添加物は世界一」は必ずしも“事実”ではない
まず結論からお伝えすると、「日本の食品添加物の種類が世界一」という言説は、必ずしも正確な事実とは言えません。
インターネット上では「日本の添加物は約1500種類で世界一!アメリカの約10倍!」といった情報が見られますが、これには少し注意が必要です。なぜなら、国によって食品添加物の定義や分類、カウント方法が異なるため、単純な数での比較が非常に難しいからです。
例えば、日本では添加物を以下の4つに分類しています。
指定添加物: 国が安全性を評価し、使用を許可したもの(約470品目 ※2023年時点)
既存添加物: 長い食経験に基づき、例外的に使用が認められているもの(約360品目)
天然香料: 動植物から得られる香料(約600品目)
一般飲食物添加物: いちごジュースで色付けするなど、それ自体が食品であるもの(約100品目)
このうち、香料や食品そのものであるものをすべて含めて「約1500種類」と表現されることがあります。一方で、アメリカでは許可されている添加物をすべてリスト化しており、その数は数千に及ぶとも言われ、単純比較はできません。
ただし、欧州連合(EU)などと比較した場合、日本の添加物の種類が多い傾向にあるのは事実です。では、なぜ日本の添加物は多いのでしょうか。その背景には、私たちの豊かな食生活が深く関わっています。
なぜ日本の食品添加物は種類が多いのか?考えられる4つの理由
日本の添加物の種類が多い背景には、単に規制が緩いからというわけではなく、日本の食文化や社会のニーズが反映された、複合的な理由が存在します。
理由1:世界有数の豊かさを誇る「惣菜・加工食品」文化
コンビニエンスストアの弁当やおにぎり、スーパーマーケットの色とりどりの惣菜、冷凍食品など、日本の食生活は多種多様な加工食品によって支えられています。
- 見た目の美しさ: 切り口が変色しないハムやソーセージ
- 食感の良さ: ふわふわのパン、なめらかなプリン
- 風味の維持: 開封後も変わらないだしの風味
- 保存性の向上: 長期間、安全に食べられること
こうした「おいしさ」「便利さ」「美しさ」を、いつでも、どこでも、手頃な価格で実現するために、様々な種類の添加物が重要な役割を果たしているのです。この世界でも類を見ないほど高度で多様な加工食品のニーズが、結果として多くの種類の添加物を必要としています。
理由2:「食の安全」に対する世界一厳しい目
日本は高温多湿な気候であり、古くから食中毒との戦いの歴史がありました。消費者の「食の安全」に対する意識は世界的に見ても非常に高く、食品メーカーは徹底した衛生管理を求められます。
保存料や日持向上剤は、食中毒の原因となる菌の繁殖を抑え、食品が腐るのを防ぐために不可欠です。豆腐を固める「にがり(塩化マグネシウム)」や、こんにゃくを固める「水酸化カルシウム」のように、古くからの知恵が添加物として利用されている例も少なくありません。添加物は、食中毒のリスクを減らし、私たちの食の安全を守るという重要な使命も担っているのです。
理由3:安全性を大前提とした「ポジティブリスト制度」
日本の食品添加物は、「ポジティブリスト制度」という非常に厳格なルールに基づいて管理されています。
これは、「原則としてすべての添加物の使用を禁止した上で、国が安全性を評価し、許可したものだけを使用できる」という制度です。許可されていない添加物はもちろん、許可されていても使用できる食品や量が厳密に定められています。
この制度は、安全性が確認されたものしか市場に出回らないようにするための、いわば“性悪説”に立った厳しい仕組みであり、日本の食品の安全性を根幹で支えています。
理由4:食を支える日本の高度な食品加工技術
日本の食品産業は、より少ない量で高い効果を発揮する添加物を開発したり、複数の添加物を組み合わせて新たな食感や風味を生み出したりと、世界トップクラスの技術力を持っています。この技術開発力が、結果として多種多様な機能を持つ添加物のラインナップにつながっている側面もあります。
海外とこんなに違う!「海外で禁止」の真相
「海外では禁止されているのに、日本では許可されている添加物がある」という話は、消費者の不安を煽る代表的なトピックです。これは事実なのでしょうか。
答えは「イエス」であり、同時に「ノー」でもあります。
実際に、一部の国では使用が禁止されていても、日本では安全性の評価を経て使用が認められている添加物は存在します。例えば、パンの品質改良剤として使われることがある「臭素酸カリウム」は、EUやカナダでは使用が禁止されていますが、日本では最終的に食品に残存しないことを条件に使用が認められています。
一方で、その逆のケースも数多く存在します。海外では広く使われているものの、日本では安全性が確認されていない、あるいは日本の食文化に必要ないとして許可されていない添加物もたくさんあるのです。実際に、海外から輸入された菓子類やジュースが、日本の基準では認められていない着色料を使用していたために、税関で止められるケースは頻繁に発生しています。
つまり、「海外の基準=安全」「日本の基準=危険」というような単純な二元論で語れる問題ではないのです。各国がそれぞれの食文化や科学的知見に基づき、独自の基準を設けているのが実情です。
最も気になる「安全性」は?ADIと複合摂取のリスク
添加物を語る上で、最も重要なのが「安全性」です。日本の添加物の安全性は、どのように確保されているのでしょうか。
安全性のものさし「ADI(一日摂取許容量)」
添加物の安全性評価の国際的な基準となっているのが「ADI(Acceptable Daily Intake:一日摂取許容量)」です。
これは、**「人が生涯にわたって毎日摂取し続けても、健康に悪影響がないと推定される1日あたりの量」**を示すものです。
ADIは、動物実験で有害な影響が全く見られなかった「無毒性量(NOAEL)」を、さらに安全係数(通常は100倍)で割って算出されます。動物とヒトの違い(10倍)と、個人差(10倍)を考慮した、非常に厳しい安全マージンが取られているのです。
厚生労働省は定期的に、日本人が実際にどのくらいの添加物を摂取しているか(摂取量調査)を行っていますが、ほとんどの添加物で実際の摂取量はADIをはるかに下回っており、多くはADIの1%にも満たないのが現状です。
多くの人が不安に思う「複合摂取」のリスク
「一つの添加物は安全でも、複数の添加物を一緒に摂ったらどうなるの?」という複合摂取のリスクも、多くの方が懸念する点です。
現在の科学では、通常の食生活の範囲内で摂取する添加物の組み合わせによって、健康に悪影響が出るという明確な証拠は見つかっていません。
ただし、特定の組み合わせについては注意が喚起されている例もあります。例えば、ハムやソーセージに使われる発色剤「亜硝酸ナトリウム」は、魚介類などに含まれる「アミン類」という物質と胃の中で反応し、「ニトロソアミン」という発がん性物質に変化する可能性が指摘されています。
こうした情報も踏まえ、国はリスク評価を続けています。私たち消費者も、特定の加工食品ばかりを大量に食べ続けるといった偏った食生活を避け、バランスの良い食事を心がけることが、結果的にリスクを分散させることに繋がります。
今日からできる!賢い消費者になるための3つのステップ
添加物について正しく理解した上で、私たちは日々の食品選びでどのようなことを心がければ良いのでしょうか。過剰な不安を抱えるのではなく、賢く付き合っていくための具体的な3つのステップをご紹介します。
ステップ1:食品表示の「/(スラッシュ)」に注目!
食品の裏側にある原材料表示を見てみましょう。2020年の食品表示法改正により、原材料と添加物を明確に区別して表示するルールが推奨されています。多くの食品で、原材料と添加物の間に「/(スラッシュ)」を引くなどして、どこからが添加物なのかが一目で分かるようになっています。
まずはこの「/」の後ろに何が書かれているかを確認する習慣をつけるだけで、食品選びの意識が大きく変わるはずです。
ステップ2:「無添加」「不使用」表示の本当の意味を知る
「無添加」や「〇〇不使用」と書かれていると、なんとなく安全で健康的だと感じてしまいますが、少し立ち止まってみましょう。
この表示は、ある特定の添加物を使用していないことを示しているだけで、他の添加物が使われている可能性はあります。 また、保存料無添加の代わりに、pH調整剤や日持向上剤といった別の添加物で保存性を高めているケースも少なくありません。
表示の言葉だけでなく、必ず原材料表示全体を確認することが大切です。
ステップ3:過剰に恐れず、でも「知っておく」。自分なりの基準を持つ
添加物は、現代の豊かな食生活を支える上で、なくてはならない存在です。そのすべてを悪者として避ける必要はありませんし、現実的ではありません。
大切なのは、正しい知識を身につけ、自分や家族にとって何が重要かを考え、自分なりの基準を持つことです。
例えば、「子どもに食べさせるお菓子は、なるべく合成着色料の少ないものを選ぼう」「毎日食べるパンは、シンプルな原材料のものにしよう」といった、生活の中に無理なく取り入れられる小さなルールから始めてみてはいかがでしょうか。情報を鵜呑みにせず、なぜその添加物が使われているのかを少し考えてみるだけでも、食品との付き合い方はより良いものになるはずです。
まとめ
最後に、この記事の要点をまとめます。
- 「日本の添加物世界一説」は、国の制度の違いを無視した単純比較であり、必ずしも事実とは言えない。
- 日本の添加物の種類が多いのは、豊かな加工食品文化、高い安全性への要求、厳格な管理制度(ポジティブリスト制)の裏返しでもある。
- 安全性は、科学的根拠に基づいた「ADI」という非常に厳しい基準で管理されており、実際の摂取量はその基準を大幅に下回っている。
- 海外との基準の違いは、それぞれの国の食文化や考え方を反映したものであり、「どちらが優れている」という問題ではない。
- 大切なのは、添加物を過度に恐れるのではなく、正しい知識を持ち、食品表示を確認する習慣をつけ、自分なりの基準で賢く食品を選ぶこと。
添加物は、私たちの食生活を豊かにし、安全を守るために大きな役割を果たしています。この記事が、皆さまの添加物に対する正しい理解を深め、より安心で豊かな食生活を送るための一助となれば幸いです。
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